妊娠によるホルモンとからだの生理的な変化は、夜の睡眠にも影響を与えます。 妊婦さんが熟睡しにくくなる理由とその対策について紹介します。

早田憲司先生
早田憲司先生
愛染橋病院 産婦人科 部長

昼間に睡眠を補ったり、寝姿勢を工夫したりするとよいでしょう

「夜中に目が覚めてしまう」「眠りが浅い」「熟睡できなくて昼間も眠い」といった症状は多くの妊婦さんに起こるものです。これにはいくつかの理由が考えられます。

まず挙げられるのは、ホルモンの変化です。妊娠初期にはhCGというホルモンの値が急激に上昇します。また、妊娠全期間を通して妊娠の維持に関与するプロゲステロンというホルモンの分泌も増えます。この2つはどちらも眠気を起こす作用があり、夜に寝ていても昼間に眠気をもよおす原因となります。そのほかに、妊娠によるからだの変化も影響します。つわりの不快症状はもちろん、妊娠中期以降は、増大した子宮が膀胱を圧迫して就寝中に尿意をもよおすこと、胎動が気になること、腰痛を感じて頻繁に寝返りをうつことなどが、熟睡できない原因となります。さらに、約2割の妊婦さんが経験するという「むずむず脚症候群」(なんとなく足の置きどころがなく落ち着かない症状)や、足のこむら返りの痛みで起きてしまうことも。臨月近くにはおなかの張りが気になることも、夜中の熟睡を妨げます。

ただし、日中になるべく休息をとり、可能なら昼寝をして補えば、夜に眠れなくともそう心配はいりません。

その一方で、ちょっと心配なケースもあります。「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」という、寝ている最中に無呼吸状態が繰り返される疾患の場合です。これについては重症の場合、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などとの関連性が指摘されています。自分で寝苦しさを感じており、家族から「大きないびきをかいている」「呼吸を止めていることがある」と言われる人は、一度かかりつけ医に相談をしてみましょう。

中期から後期に入ると、徐々に仰向けで寝るのが苦しくなってきます。大きくなった子宮がからだの右側を通る下大静脈を押さえつけて血流を滞らせ、血圧が下がってしまうからです。「仰臥位低血圧症候群」と呼ばれるこの症状は、仰向けに寝るのをやめて、からだの左側を下にして寝ることによって解消できます。横向きが安定しないという人は、抱き枕などを利用するのもよいでしょう。仰向けで寝るのを避けて、妊婦さんが寝苦しくない姿勢をとるということは、赤ちゃんにきちんと酸素を送るという意味でも大切なことです。