日々のからだの変化と出産に向けて、妊婦さんの気持ちは不安定になりがち。パートナーとしてどんなふうに支えたらよいか、具体的にご紹介します。

板岡奈央先生
板岡奈央先生

彼女をサポートするために、これだけは知っておいて

妊婦さんの体調を気づかいながら赤ちゃんの誕生を待ち望む気持ちは、パートナーも同じことと思います。なのに、なぜかふたりの気持ちが噛(か)みあわないことがあります。自分なりに気をつかっているつもりなのに、妊婦さんは泣いたり怒ったりする。男性にしてみれば理不尽(りふじん)に感じるときもあるでしょうが、腹を立てたりしないでください。妊娠中の女性は日々のからだの変化や出産への不安などから、精神的にも不安定。妊娠から出産まで、よくある誤解や失敗談を紹介します。これを参考に、自分なりの姿勢で、彼女をしっかりと支えていってください。

その① 涙に理由を求めない。妊娠中の女性は精神的に不安定

妊娠中の女性は、精神的に不安定。妊娠前は何とも思っていなかったことでも、突然悲しくて涙が止まらなくなることがあります。ホルモンの影響に加えて、体調の悪さ、漠然とした不安、肉体的な疲労感などが重なって、イライラが募(つの)ってしまうことも。自分はおなかが大きくて日常生活だけでも大変なのに、あなたが変わらない生活を続けていることにいらだちを感じることも。そこで理不尽だと思うのはお門違(かどちが)い。言葉や態度にはっきりと表して、彼女の気持ちをいたわってあげてください。妊娠中の関係性は産後にも影響します。「妊娠中、つらいのに助けてくれなかったよね」と、後になって言われないようにしたいものです。

その② いっしょに考える、いっしょに決める

妊娠という初めての経験の中で決めなければならないことや、しなければならない手続きが、女性にはたくさんあります。中でも、「仕事を続けるかどうか」は、大きな決断。最終的に決めるのは本人だとしても、「任せるよ」「好きにすれば」という言葉は、突き放しているように伝わるものです。妊娠、出産に関することは、すべてふたりの問題。仕事を続けるかどうかも、いっしょに考え、いっしょに決めるようにしましょう。それが精神的な支えになるというのも理由のひとつですが、妊娠中は冷静な判断が難しい時期でもあります。あなたの冷静な意見を、彼女は必要としているのです。

その③ つわりのつらさは、男性には経験できない

妊娠初期の妊婦さんの多くが経験するつわり。吐(は)きづわり、食べづわりなど、さまざまな症状がありますし、重さも人それぞれです。そのつらさは、男性には想像しにくいものです。会社の同僚など、自分が知っている女性を引き合いに、「○○さんは平気そうだったよ」「△△さんはがんばって会社に来ていたよ」と言うのはやめましょう。また、この時期は、できる限りあなたが家事を引き受けるようにしてください。入院中や産褥期(さんじょくき)は、あなたも家事をすることになりますから、この機会に覚えるといいでしょう。つわり中はにおいにも敏感になるので、料理をすると気持ち悪くなることもあります。ごはんの用意ができていないからと、がっかりしないでください。あなたが理解を示すことで、気持ちがラクになって症状が軽くなることもあります。「食べたいものある? 買ってくるね」と、優しく声をかけてあげるといいでしょう。

その④ 悲しい結果になったら、とことん支える

残念なことですが、妊娠の15%前後が流産になるといわれており、悲しい結果になるのはまれなことではありません。一般に男性の方が割り切りが早く、彼女が無事なら安心して、「次またがんばろう」と思えるものです。ですが、女性は喪失感(そうしつかん)をなかなか乗り越えられずにいることもあります。具体的にできることが少なく、男性としてもつらい期間だと思いますが、自分なりの方法で彼女の気持ちに寄り添ってください。心の痛みと向き合うことを、彼女に任せっきりにしないでください。悲しい体験はあまり人と話すことではないかもしれませんが、同じ体験をしたママ友と会話すると、「実はめずらしいことじゃないんだ」と知って、少し気持ちが軽くなることもあります。ブログで経験を書いている人もいますので、そういった情報に接するのもひとつの方法かもしれません。

その⑤ 寝てばかりでもイヤミを言わない

妊娠中は、朝起きて会社に行くだけでも大変です。仕事に支障(ししょう)をきたさないように乗り切ることに、想像以上に大きな体力を使っているのです。妊婦さんは家に帰って寝るだけの生活になることもあります。その場合は、家事や上の子のお世話などを引き受けてください。男性にできることはたくさんあります。やってみれば、意外と楽しかったり、あなたの方が上手にできることもきっとあります。家事や育児の能力に男女差はありません。「オレって母性ないから」などと決めつけずに、楽しみながら取り組みましょう。

その⑥ 健診では待たされることを理解して

男性が妊婦さんといっしょに妊婦健診に来るのは、すばらしいことだと思います。ただし、病院によっては予約していても1〜2時間待つことがあると知っておいてください。産科では健診と並行(へいこう)して、急にお産が始まったり、患者が搬送(はんそう)されてくるケースなどへの対応が求められるため、なかなか診察が予定通りに進みません。妊婦健診は診療所で受診し、分娩(ぶんべん)は設備やスタッフの充実した大きな病院で行う、産科オープンシステムという方法もあります。分娩(ぶんべん)を扱わない小規模クリニックの方が、待ち時間が短い場合が多いです。仕事の都合などで待ち時間を取るのが難しいようでしたら、オープンシステムを採用している病院を探してもよいかもしれません。

その⑦ 予定日に生まれるとは限らない

「予定日に合わせて有給休暇を取ったのに、生まれませんでした…」という声を聞くことがあります。実は、予定日に生まれる確率はそれほど高くありません。予定日に合わせて有休を取っても、その前後に生まれることも少なくないのです。理想的なのは「だいたいこの辺りで有休を取りたいんですけど、ずれることもあります」と職場に伝えておくこと。あなたがまずやってみれば、後の人たちも同じように休みやすくなるかもしれませんね。それが難しいようなら、休みの時期を予定日より2週間以降と遅めにしておくと、立ち会いはできなくても、家事や育児でパートナーを支えることができます。産後1カ月、女性のからだは大変ですから、退院後、家事やオムツ替えなど、しっかりサポートしていきましょう。育児休業は、もちろん男性も取得できます( 1 参照)。

その⑧ お産は長丁場(ながちょうば)、最初にがんばり過ぎないで

男性がお産に立ち会う「立ち会い出産」が増えています。女性がどれだけがんばって赤ちゃんを産むか、男性も見ておくのはよいことです。立ち会い出産で男性が何をするか、あらかじめ調べておくといいでしょう( 2 参照)。ビデオを撮るだけでなく、陣痛(じんつう)で苦しんでいるときに腰をさすってあげるとか、水分補給を手伝うなど、協力できることがたくさんあります。両親学級は勉強になりますので、立ち会いするかしないかにかかわらず、ぜひ男性にも参加してもらいたいです。さて、お産は、人によっては20時間を超える長丁場(ながちょうば)になることもあります。個人差が大きいのであくまで目安ですが、初産婦で12〜16時間、経産婦は5〜8時間程度かかります。一番つらいのは妊婦さんですが、付き添(そ)う男性もやはり疲れます。最初から張り切っていると、後の方でバテることもありますから、仮眠が取れるときに少し寝ておくといいですよ。産科医や助産師に「見通しはどうですか? 今、少し寝ておいても大丈夫ですか?」と、尋(たず)ねてみるのがいいでしょう。後半に疲れて寝てしまって、「目が覚めたら生まれてました…」ということにならないよう、ペース配分を考えましょう。

2.『立ち会い出産、その前にできることって?』