安産とは、お母さんとベビーが元気におうちに帰ること。急に必要になってもあわてないよう、医療介入について知っておきましょう。

木村正先生
木村正先生
大阪大学大学院 医学系研究科産科学婦人科学教室 教授

理想のお産と、医療介入の必要性

「あなたはどんなお産がしたいですか?」という質問をすると、たいていの女性は「自然なお産がいい」と答えます。最近はバースプランをつくって、あらかじめお産をイメージしてもらう施設もあります。確かに自然に陣痛(じんつう)がきて、スムーズに子宮口が開き、あまり痛まずにいきみを感じて、会陰切開もせず、切れることもなく赤ちゃんが生まれ、胎盤(たいばん)が出て出血が止まる、というのが理想です。

でも、自然は残酷です。アフリカなどでは今でも「自然」に放っておいたために死産になった、膀胱(ぼうこう)と腟(ちつ)に穴が開いて尿が出っぱなしになった、出血が止まらなくて母親が死んでしまった、などのできごとがたくさんあります。私たちはこのような残酷なことを学んで、そういうことが起こらないように予防手段をうちます。それが、例えば陣痛(じんつう)誘発や促進であったり、吸引・鉗子(かんし)分娩(ぶんべん)であったり、帝王切開であったり、産後の止血のための処置であったり、という医療介入なのです。

逆に「痛いのが怖いから最初から帝王切開して!」という女性もおられます。しかし、帝王切開すると次の妊娠で前置胎盤(たいばん)、癒着(ゆちゃく)胎盤(たいばん)などが増え、また術後の腸閉塞(ちょうへいそく)などのリスクもあります。赤ちゃんの問題も、実は問題がないと判断された経腟(けいちつ)分娩(ぶんべん)より多いのです。痛いのが怖ければ硬膜外麻酔による和痛分娩を麻酔科と共同で行う施設も少しずつ増えてきました。

安産は、結果として母と子が元気におうちに帰ることができることをいいます。私たち産婦人科医は、そのために日夜努力をしています。もちろん、適度な運動をしてちゃんと栄養を摂(と)り、適正な体重増加を保つ、ということは大切です。でも、「努力したから自然に産める」というものではありません。自然にお産が進んで、介入がいらなければそれでよし、必要であればその介入はぜひとも受け入れてください。もちろん、説明をよく聞いて質問をして、納得して受けてもらうことはとても大事です。ただ、お産の現場では急に状態が変わることがあります。そうなってもあわてないように、日頃から「自然」以外のいろんな介入法も聞いておくといいと思います。介入を受けたことは決して「負け」ではないのです。