妊娠中はいずれの時期も出血しやすく、さまざまな原因が疑われます。出血した場合は自己判断せず、かかりつけ医の指示に従いましょう。

平松祐司先生
平松祐司先生
岡山市立市民病院 産婦人科 診療顧問 / 岡山大学名誉教授

出血したらかかりつけ医に連絡を

妊娠中はいずれの時期でも出血しやすい状態となっています。出血といっても、おりものに少し血が混じったものから、ナプキンやショーツに大量に赤い血が付くもの、何日も少量の出血が続くものまで、いろいろあります。黒っぽい血や、薄茶色のものは、過去の出血が出てきていると考えられます。真っ赤な血は、まさに今、出血している可能性があり、リスクが高いことがあります。おなかの赤ちゃんに影響があるようなら、早急に対応する必要があります。さまざまな原因が考えられますので、出血した場合は自己判断せず、かかりつけ医に電話し、その指示に従ってください。その際は、次のポイントを伝えるようにしましょう。

  • いつから出血しているか、出血の量、色、におい、固形物が混じっているか
  • おなかに痛みはあるか、張っているか
  • 吐(は)き気や貧血などの症状、体調の変化の有無

妊娠初期の出血、主な原因

【妊娠月経】

妊娠していても次の月経が予定された時期に、少量の性器出血が起こることがあります。特に処置はいりませんが、切迫流産(せっぱくりゅうざん)でないか鑑別が必要となります。

【切迫流産(せっぱくりゅうざん)】

出血は非常に少量から中等量まであります。下腹部に鈍(にぶ)い痛みがあり、超音波検査で胎嚢(たいのう)の変形や血液貯溜がみつかります。安静、子宮収縮抑制薬の投与、入院管理を行います。くわしくは下記の『切迫流産・切迫早産といわれたら』のページ をご覧ください。

切迫流産・切迫早産といわれたら

【前置胎盤(ぜんちたいばん)】

胎盤(たいばん)が正常より低い位置に付いて、内子宮口(子宮の出口)にかかっている状態のことです。経腟(けいちつ)超音波検査で診断します。初期の前置胎盤(ぜんちたいばん)は、子宮が大きくなるにつれ治ることも多いです。妊娠末期まで治っていなければ、リスクの高い妊娠であり、帝王切開が必要となります。胎盤(たいばん)形成後、妊娠中どの時期にも疑われる疾患です。

【異所性(いしょせい)妊娠】

子宮腔以外に受精卵が着床することで、子宮外妊娠と呼ばれることもありましたが、今は異所性(いしょせい)妊娠といいます。そのほとんどは卵管妊娠です。残念ですが、胎児が成長できる環境ではありませんので、妊娠の継続はあきらめるしかありません。症状としては、出血と下腹痛がありますが、妊娠部位、週数により程度はさまざまです。手術、薬物療法、経過観察のいずれかで治療します。

【頸管(けいかん)無力症】

頸管(けいかん)とは、分娩(ぶんべん)時に赤ちゃんが通って出てくる、子宮口近くの細長い子宮頸部(けいぶ)内の筒(つつ)状の部分です。妊娠の早い段階であるにもかかわらず、頸管(けいかん)が内側から開いて流産・早産になる可能性のある病気が、頸管(けいかん)無力症です。軟化した子宮腟(ちつ)部、子宮口の開大、胎胞(たいほう)の膨隆(ぼうりゅう)を認めることもあります。入院安静、子宮収縮抑制薬の投与、絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)の有無の検査、頸管縫縮術(けいかんほうしゅくじゅつ)などの治療を行います。

【胞状奇胎(ほうじょうきたい)】

受精卵が着床するときに絨毛(じゅうもう)部分が異常増殖を起こした状態で、放置すると絨毛(じゅうもう)がんとなる確率が高いものです。ほとんどの場合、妊娠継続はあきらめるしかありません。つわり症状が強く、妊娠週数に比して子宮が大きく柔らかくて、卵巣も腫大(しゅだい)していることがあります。子宮内容除去術、場合によっては抗癌剤(こうがんざい)の投与、1年間は避妊などの治療が必要になります。

【進行流産】

出血量は多く、腹痛をともなうことが多く、子宮口から胎盤(たいばん)、胎児組織の一部が排出されかかっている、あるいは腟(ちつ)内にすでに排出されています。完全に排出されたかどうか超音波検査を行い、遺残(いざん)の疑われるときは子宮内容除去術や、術後、抗生物質と子宮収縮薬の投与が必要となることがあります。流産については下記の『流産・死産・早産を経験したあなたへ』のページ をご覧ください。

『流産・死産・早産を経験したあなたへ』

【子宮頸(けい)がん】

子宮の出口である子宮頸部に発生するがんで出血を伴うことが多いです。現在は妊娠初期に無料券で全員スクリーニングがあります。妊娠中期以降に発見されることもあり、進行期、発見時期により、治療法が異なります。

妊娠中期以降の出血、主な原因

【切迫早産(せっぱくそうざん)】

出血は少量のことが多く、子宮が緊張しており、子宮収縮が認められます。安静、子宮収縮抑制薬の投与、症状の強いときは入院管理が必要です。下記の『切迫流産・切迫早産といわれたら』のページ にくわしい説明があります。

『切迫流産・切迫早産といわれたら』

【前期破水】

通常の破水は分娩(ぶんべん)中に起きることが多いのですが、陣痛(じんつう)が起こっていない段階で羊水が流れ出すことを前期破水といいます。その際に出血を伴うことがあります。破水すると陣痛(じんつう)がおきることが多いため、早い時期に前期破水が起きると、早産となることがあります。大量の水のような羊水が流れることがありますが、肉眼的に明らかでない場合は各種生化学的検査により、破水の有無を確認します。

【常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)】

胎児の娩出(べんしゅつ)よりも先に、胎盤(たいばん)が剥(は)がれてしまうことをいいます。剥離(はくり)の程度により症状が異なり、外出血は必ずしも多くありません。進行すると、子宮が硬直し、下腹痛があり、胎児心拍数モニタリングで児心音の悪化、子宮収縮、子宮硬直による連続的子宮収縮波形が認められます。胎児低酸素症になる可能性があるため、早急に胎児を娩出(べんしゅつ)する必要があります。胎児の救命が可能な妊娠週数で、生存している場合は、大急ぎで赤ちゃんを出してあげる必要があります。