切迫流産(せっぱくりゅうざん)は流産ではなく、「妊娠が継続できる」という診断のこと。切迫早産(せっぱくそうざん)も同じように早産になるとは限りません。

平井千裕先生
平井千裕先生
麻布ウィメンズクリニック 院長

切迫流産(せっぱくりゅうざん)は流産とは違います

妊娠22週未満の時期に胎児が子宮外に出てしまうことを流産といい、全妊娠の15%前後に起きるともいわれています。そのうちの約80%は染色体異常など赤ちゃん自身に原因があることが多く、妊娠12週より前など早い時期に流産となります。これに対し、子宮内に赤ちゃんがいて出血すると、一般的に「切迫流産(せっぱくりゅうざん)」と診断されます。

妊娠継続可能な場合が多く、赤ちゃん自身に原因があり、妊娠継続が難しい流産とは別の症状です。妊娠16週までは胎盤(たいばん)形成の途中なので、胎盤(たいばん)周囲に血液がたまることがあります。ハードな仕事や運動など腹圧がかかるような動作が過度なことが原因となることもあります。切迫流産(せっぱくりゅうざん)そのものを治療する薬はなく、基本的には安静で経過を観察することが必要となります。腹圧に気を付けて様子を見て、症状が軽快するようなら翌日あるいは予定された健診日に受診してください。

ただし、安静にしていても、腹痛が強くなっていく、月経よりも多い出血量がある、出血が何日も続くときは、早めに受診も必要となりますので、かかりつけの病院・クリニックに連絡しましょう。症状によっては、緩和のための薬が処方される、または安静を指示されることもあります。一方、妊娠16週を過ぎると胎盤(たいばん)形成も完了し安定期に入ります。この時期以降の出血は、子宮収縮や子宮頸管無力症に伴うものも考えられますので、必ずかかりつけの病院・クリニックに連絡し受診が必要か相談しましょう。

流産ではありませんが、初診の際に、子宮内に胎嚢(たいのう)や胎芽(たいが)が認められない場合、異所性(いしょせい)妊娠(子宮以外のところに妊娠してしまっている)となっている場合があります。この場合、妊娠は継続できません。また、おなかの張りや出血に加え、帯下(たいげ)(おりもの)が増加した、水様性帯下(すいようせいたいげ)(水っぽいおりもの)があるといった場合には、医師の指示をあおいでください。普段とは違う重い腹痛を感じるときは、時間外であっても必ず連絡して受診するようにしましょう。

早産は22週以降、36週6日までの出産

日本では妊娠22週~妊娠36週6日に出産することを早産といい、全妊娠の5%に発生するといわれています。早産は母体側に原因があることが多く、腟(ちつ)内細菌による炎症(えんしょう)が子宮内へ広がって起きることや、子宮頸管(けいかん)無力症などがあげられます。原因がわからない早産もあります。出産する妊娠週数が早いほど赤ちゃんへの負担が大きくなるため、早産にならないよう、定期的に健診を受け、異常を早く見つけ、予防や必要に応じて治療を行うことが大切です。

切迫早産(せっぱくそうざん)は安静が大切

妊娠22週以降に頻繁な子宮収縮や頸管(けいかん)の短縮、子宮口の開き、出血などがみられ、早産に進む可能性がある状態になると、「切迫早産(せっぱくそうざん)」と診断されます。早産歴がある、円錐(えんすい)切除術歴がある、多胎妊娠、頸管(けいかん)短縮、細菌性腟(ちつ)症などの場合、早産リスクが高くなるといわれており、先に知っておくことで、適切な時期に適切な治療を行って早産へ進ませないよう予防管理することが可能です。症状の程度によっては入院による管理が必要になることもありますが、子宮収縮の程度が軽く子宮口が開いていない、子宮頸管(けいかん)長の短縮がみられない場合は、外来通院による治療で大丈夫です。収縮が強い場合は、子宮収縮抑制剤を処方されることもあります。細菌による腟(ちつ)内感染や炎症(えんしょう)の治療として、抗菌薬の腟錠(ちつじょう)投与や腟(ちつ)洗浄をすることもあります。

妊娠16週頃から起こる子宮頸管(けいかん)無力症は、だんだんと増えていく赤ちゃんや胎盤の重さに耐えられず、子宮口が開大していってしまう症状のことです。この場合、流産・早産になるのを防ぐ目的で、子宮の出口である頸管(けいかん)を縛る子宮頸管縫縮術(けいかんほうしゅくじゅつ)を行うこともあります。

切迫早産(せっぱくそうざん)と診断されたら、子宮口の開きにつながる子宮の収縮、おなかの張りを引き起こす行動を控え、ゆったりと過ごしてください。妊娠による生理的変化の特徴として血液が固まりやすい状態になっているので、安静にするときは、十分な水分を摂取し、適度な足の曲げ伸ばし運動を行いましょう。また、安静にしていると体重が増えがちになるので食事などに気をつけましょう。

早産と同じ時期には、早産以外にも高血圧や尿蛋白(にょうたんぱく)がみられる妊娠高血圧症候群や、子宮口を胎盤(たいばん)が覆(おお)っている前置胎盤(ぜんちたいばん)、胎盤(たいばん)が先に剥(は)がれてしまう常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)など、赤ちゃんや母体に対して危険な状態が起こることもあります。おなかの張りの中でも、いつもより持続時間が長い、痛みが強い、突然の出血が起こった、赤ちゃんの胎動(たいどう)が普段よりも弱い、破水したなどの場合は、必ずかかりつけの医師に連絡し、病院を受診するべきか相談しましょう。