感染症の中には、妊娠中に感染すると赤ちゃんに影響を及ぼすものもあります。予防方法を理解し、赤ちゃんを守りましょう。

岩下光利先生
岩下光利先生
社会福祉法人 康和会 久我山病院 病院長/杏林大学 名誉教授

赤ちゃんに先天異常を起こす可能性のある感染症

風疹(ふうしん)は、妊娠初期に母親が感染すると、赤ちゃんに白内障や緑内障などの目の疾患(しっかん)や先天性心疾患(しんしっかん)、感音性難聴(かんおんせいなんちょう)を起こすことが知られています。母親が妊娠前に風疹(ふうしん)にかかったり、ワクチンを受けていて風疹(ふうしん)の抗体を持っているか、妊娠20週以降にかかった場合は、赤ちゃんへの影響はほとんどありません。トキソプラズマ感染は、主に妊娠初期に母親から胎児が感染すると流産・死産、脳内石灰化、水頭症、脈絡網膜炎(みゃくらくもうまくえん)、小頭症(しょうとうしょう)、精神運動発達遅延などを起こすことがあります。サイトメガロウイルス(CMV)も、母親から胎児に感染が及んで難聴を含めた脳機能障害の症状が出ることがあります。特に妊娠中に未感染の母親が感染したり、既感染の母親に再活性化が起こったりすると、新生児に感染を生じる危険性が高くなります。パルボウイルスB19感染は、大人では伝染性紅斑(こうはん)(リンゴ病)として知られ、胎児が胎内で感染すると高度の貧血から全身がむくんだり、心不全を起こします。家庭内にリンゴ病の感染者がいると妊婦さんは特に感染のリスクが高いので、風邪のような症状、発疹、関節痛などの症状がみられたら、他の妊婦さんへの感染を避けるため、まずは電話で相談をしてください。そして、受診する際の場所など、医師の指示に従って行動してください。

性感染症

性感染症とは性交により感染する疾患の総称で、胎児や新生児に影響する疾患が多数あります。日本の性感染症でもっとも多い性器クラミジア感染症では、胎児が産道を通るときに母親から感染し、結膜炎、咽頭炎(いんとうえん)、肺炎などを起こします。妊娠中に子宮頸管(けいかん)のクラミジア検査を行い、陽性の場合は抗菌薬(こうきんやく)を服用し、パートナーの性器クラミジア検査も行うことをお勧めします。性器ヘルペスでは外陰部に水泡(すいほう)や潰瘍(かいよう)ができて、排尿や歩行時に強い痛みをともないます。胎児が母親から感染すると皮膚や眼、口に水泡ができる軽症型もありますが、中枢神経や全身に感染が起こると死に至(いた)ることもあります。妊娠中に病変がみられた場合は、内服薬・注射薬、外用薬などの抗ウイルス薬で治療します。性器ヘルペスは一度治っても再発することが多く、分娩(ぶんべん)時に病変がある場合や、初めて感染してから1カ月以内か再発から1週間以内に分娩(ぶんべん)となる場合などは、帝王切開を選びます。

後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染のスクリーニング検査は妊娠初期の妊婦健診で行います。このスクリーニング検査で陽性と出ても95%の妊婦さんは感染していないので、さらにくわしい検査で確認が必要です。もし感染が確認されたら、AIDS治療拠点病院で妊娠・分娩(ぶんべん)管理を受け、妊娠中の抗HIV薬投与や帝王切開での分娩(ぶんべん)を行い、生まれた新生児には人工栄養哺育(ほいく)と予防的抗HIV薬投与を行うことで母子感染を減らすことができます。梅毒(ばいどく)感染も妊娠初期の妊婦健診で必ず行う検査のひとつで、感染があれば抗菌薬(こうきんやく)で治療を行います。梅毒(ばいどく)にかかった母親から生まれた新生児には、先天梅毒(ばいどく)の感染がないか調べます。

その他の感染症

成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)を母親が持っていると、生まれてきた赤ちゃんが将来成人T細胞白血病にかかるリスクがあります。HTLV-1は母乳から感染しますので、ウイルスを持っているお母さんでは人工栄養が勧められます。B群溶血性(ようけつせい)連鎖球菌(れんさきゅうきん)(GBS)は10〜30%の妊婦さんの腟(ちつ)や肛門から検出されますが、生まれてきた赤ちゃんが感染すると、誕生後に重篤(じゅうとく)な症状を起こすことがあります。妊娠後期にGBS培養(ばいよう)検査で陽性の場合や前のお産で赤ちゃんがGBS感染を起こした場合は分娩(ぶんべん)時に抗菌薬(こうきんやく)を母親に投与します。B型肝炎ウイルス感染は、このウイルスを持った母親がすべて肝炎となるわけではないですが、ウイルスを持った母親から生まれた新生児は母子感染予防法に従って治療しますので、かかりつけの産婦人科医から説明を受けてください。

防ぐにはどうしたらいいですか?

風疹(ふうしん)は、抗体を持っていない家族がいる場合、ワクチン接種を受けて家族内の感染を防ぎましょう。妊婦さんは、本来なら妊娠前に風疹(ふうしん)の抗体検査をおすすめします。もし抗体がなければ、妊娠中は風疹(ふうしん)のワクチン接種はできませんので、産後すぐに接種を受けてください( 1 参照)。トキソプラズマは経口摂取により感染します。生肉や猫の糞(ふん)、土壌に潜(ひそ)んでおり、妊娠中は生肉摂取を避け、野菜や果物はよく洗ってから食べてください。サイトメガロウイルス(CMV)は乳幼児から感染する機会が多いとされます。上の子のおむつ交換や、よだれや鼻汁をふくなどしたときは石けんでよく手を洗いましょう。食べ物や飲み物、食器などを子どもと共有するのは避けましょう。リンゴ病も家族から妊婦さんへの感染が多いので、家庭内に感染者がいる場合はマスクや手洗いなどの感染防止を励行(れいこう)しましょう。性感染症は妊婦さんを治療してもパートナーが感染していると性交により再感染してしまいますので、性交を控(ひか)えたりパートナーの検査・治療をすることが重要です。

1 『妊娠中・産後の予防接種について』