妊娠中はからだのあちらこちらに軽い痛みをともなうトラブルが発生することも。多くは、出産とともに改善していきますが、ちょっとした工夫で防げる場合もあります。

西ヶ谷順子先生
西ヶ谷順子先生
東京共済病院 婦人科部長

腰全体の鈍 (にぶ)い痛みや、恥骨(ちこつ)接合部に鋭(するど)く刺すような痛み

妊娠がわかると徐々に子宮が大きくなり始め、妊娠中期(16~27週)あたりから子宮への血流も急激に増えておなかが大きくなり、前に突き出すようになってきます。妊娠後期(28週~)になると、子宮はさらに大きくなり、おなかの重みで上体を反るような姿勢になり、からだの重心も変わってしまいます。そのため、多くの妊婦さんが訴える不調が腰痛です。

子宮が大きくなるにつれ腹筋が弱まり、骨盤周囲の体幹支持筋群が引き伸ばされるのも不調の原因となります。立ったり座ったり、階段を昇り降りするときなど、腰部全体に鈍くうずくような痛みを感じるタイプが多いです。恥骨接合部に鋭く刺すような痛み、ズキズキする痛みが走り、股を開いたり、寝返りが困難になったりするタイプもあります。

多くの人が経験する腰痛ですが、予防・改善法は様々あります。仰向けで寝ると仙骨が当たって痛い、寝返りすると腰が痛い、といった場合には、横になるときに、膝の間、腹部の下に枕を挟んで横向きに寝ると緩和されます。座るだけで腰がズキっとするという場合は、背もたれの真っすぐな椅子を使用するなどの工夫をしましょう。日頃から運動療法を取り入れることで、負担がかかっている腰部をリラックスさせることもできます。下図の「猫の体位」はその代表です。妊娠中期以降は、常時、骨盤・股関節を心地よい位置で支えることも大切。骨盤を締めるベルトや腹帯の着用も効果があります。

[腰痛に対しての運動療法 猫の体位]

現代の女性は冷えている

女性はもともとからだが冷えやすいので、冷え性の妊婦さんが多いです。からだが冷えて寒いと、血管が縮まって手足の先などに血液が流れにくくなります。からだを温めることで血の流れがよくなり、赤ちゃんに流れる血液も増えます。からだが冷えていると筋肉が硬く強張(こわば)ってしまい肩こりや腰痛の原因になり、おなかも張りやすくなります。冷え性を予防するには、半身浴や、入浴できないときは足湯だけでも効果的。豆腐、ゴマ・ナッツ類、ワカメなどの海藻類がおすすめ。

頭痛・めまいは、つわりや貧血、ストレスなどで起こりがち

妊娠中は、ホルモンによる影響、貧血、ストレスや緊張でめまいや頭痛が発生しやすくなります。ストレスや緊張が原因の場合は、後頸部(こうけいぶ)(首の前やうしろ)やこめかみのマッサージ、温湿布などによって血液の循環をよくします。めまいには、長時間の同一姿勢を避ける、弾性ストッキングを着用する、急に体位を変えないなどを日常生活で実践していくことが大切です。あまり改善しないときは、医師に相談を。妊娠高血圧症候群などの疾患の可能性もあります。アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)や鉄剤、ビタミンB1などを処方してもらうのも有効です。

血液量の増加で妊娠中にできやすい下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)

血管には、動脈と静脈(じょうみゃく)があり、動脈は心臓から新しい血液をからだ全体に流す働きが、静脈(じょうみゃく)は体に回った血液を心臓に戻す働きがあります。特に下肢(かし)(足)の静脈(じょうみゃく)は、重力に逆らって、下から上へ血液を押し上げる働きをしています。ところが、妊娠・出産、立ち仕事などで、足の静脈(じょうみゃく)の流れが悪くなり、静脈弁(じょうみゃくべん)に負担がかかると、弁の機能不全のため静脈瘤(じょうみゃくりゅう)が発生することがあります。静脈瘤(じょうみゃくりゅう)になったら、長時間の歩行や立ちっ放しを避け、医療用の弾性ストッキングなどを着用しましょう。

寝ているときに起きやすいこむら返り

妊娠後期になると、下肢痙攣(かしけいれん)を訴える人が多くなります。いわゆるこむら返りです。夜間寝ている間に起こりやすいといわれていますが、原因はよくわかっていません。ただ、妊婦さんの場合、おなかが大きくなるにつれ、足の筋肉疲労がひどくなり、就寝中に緩んだ筋肉が急に収縮した際、生理的限界を超えてしまい、痛みをともなう痙攣(けいれん)になってしまうといわれています。予防するには、ストレッチなど下肢(かし)の血液循環を促進する運動をするといいでしょう。