妊娠中のマイナートラブルの多くは、多くの妊婦さんが経験する一般的なことです。産科医は慣れていますから、恥ずかしがらずにご相談ください。

西ヶ谷順子先生
西ヶ谷順子先生
東京共済病院 婦人科部長

妊娠するとホルモンの影響で便秘になりやすい

妊娠中はとても便秘になりやすくなります。日頃は便秘知らずの人でも、妊娠中は突然、便通が悪くなるのはよくあることです。というのは、妊娠中はプロゲステロンというホルモンが多く分泌(ぶんぴつ)され、腸の動きが悪くなります。それだけでも、便秘の原因となりますが、腸の動きが悪い分、腸を通過するのに時間がかかるので、水分やナトリウムが吸収されてしまい便が硬くなってしまうのです。排便回数が週に3回など低下してしまう症状も見られます。この状況は妊娠初期から産褥(さんじょく)期までずっと続くのです。さらに、妊娠後期から末期は増大した子宮や胎児が腸を圧迫するため、より便が停滞してしまいます。便秘、硬便、おなかが張った感じを訴える妊婦さんがさらに増えます。

便秘の予防には、水分を十分に摂(と)ることが大切です。食物繊維を多く含んだ食品(根菜、かぼちゃ、ブロッコリー、のりなど)も必要です。適度な運動や規則正しい生活を心がけましょう。それでも改善しなければ、妊婦健診で相談しましょう。必要に応じて、緩下剤(かんげざい)(酸化マグネシウムなど)が処方されます。一般的な下剤の中では、センナ類は大量に投与すると、流早産の危険性があるので、過量に使用しないことが重要です。

硬便やいきみが痔(じ)を誘発する

便秘とセットで妊婦さんに起こりやすいのが「痔(じ)」です。前述したように、妊婦さんはホルモンの影響もあって、腸の動きが悪いうえに硬便(硬い便)になりがちです。硬便なため、排便時にいきむことも多く、肛門周囲の静脈叢(じょうみゃくそう)でうっ血し増大して痔(じ)を形成します。静脈叢(じょうみゃくそう)とは、肛門周囲の粘膜(ねんまく)の下にあるクッションのような部分。このクッション内の静脈うっ血けつが増して、痔(じ)になります。外側にできる外痔核(がいじかく)(いぼじ)や裂肛(れっこう)(きれじ)は痛みや腫(は)れをともないます。

痔(じ)の予防は便秘を防ぐことが第一です。長時間同じ姿勢をとっていることや、排便時に無理にいきむことも原因となります。規則正しい生活や食生活を心がけ、場合によっては緩下剤(かんげざい)などを服用して対処しましょう。痔核(じかく)がすでにある場合には、肛門周囲の温浴や局所の清潔を保つ努力が大切です。トイレのウォシュレットは使用してもかまいませんが、腟(ちつ)内の常在菌のバランスが崩れるのでビデは控ひかえましょう。痛みの強い場合には、医師に相談すると、ステロイドや局所麻酔を含んだ坐薬(ざやく)や軟膏(なんこう)を処方されることもあります。重症例には、外科的治療の適応が検討されます。いずれにしても、出産後は快方に向かうことがほとんどです。

出産が近くなると尿もれ、頻尿(ひんにょう)になるのはむしろ自然なこと

そもそも妊娠すると、血液の循環量が増えるため、からだから排出する水分の量が増えることになります。さらに、子宮の前部分に膀胱(ぼうこう)があるため、子宮が大きくなるにつれ、たくさんの量をためておけなくなり、少したまると出すようになり、自(おの)ずと「頻尿(ひんにょう)」になります。また、出産が近づくにつれ、骨盤底という筋肉が軟化して下がりやすくなります。こうなることで、胎児が通過しやすくなりますが、尿道を締(し)める力が十分働かなくなる面もあり、腹圧性尿失禁に似た尿もれが生じたりします。妊娠中のこうした尿もれは珍しいことでも恥ずかしいことでもありません。気になるなら、パット類を使うことが大切ですが、この際、衛生管理のために、生理用品ではなく尿もれ専用品を使うといいでしょう。

ひとつ注意してほしいのは、尿もれと破水の区別がつきづらいことです。本人が尿もれだと思い込んでいたものが、数日後の受診で、破水や子宮口の開大であったことが判明することもあるので、ずっとちょろちょろ尿もれが続くなど、気になったときは医師に相談しましょう。

妊娠するとおりものも増える

妊娠すると、エストロゲンというホルモンの分泌が増え、その作用で粘液(ねんえき)が増加して、結果として帯下(たいげ)(おりもの)も増える傾向にあります。大多数は特に病気などではなく、一般的には、水っぽい「水様性帯下(たいげ)」が妊娠週数が進むほど増えていきます。対処法としては、下着を小まめに替える、おりものシートや尿もれ用パッドを使うなどが考えられます。

悪臭のあるものや、白っぽくてボロボロした帯下(たいげ)の場合は、菌(きん)の感染などが疑われますので医師に相談をしましょう。特にかゆみをともなう場合は腟(ちつ)カンジダ症が疑われます。妊婦は抵抗力や免疫力が下がっているため、元々、腟(ちつ)内などに生息する真菌(しんきん)が炎症(えんしょう)を起こしてしまうことも多くなります。放っておくと、早産や前期破水などに影響する可能性がゼロではないので、抗真菌薬の腟錠(ちつじょう)やクリーム・軟膏(なんこう)などで治療します。