免疫(めんえき)力が低下し、いつもより感染症リスクが高まる妊娠期。 おなかの赤ちゃんのためにも、手洗いやマスクでの対策を習慣化しましょう。

松本哲哉先生
松本哲哉先生
国際医療福祉大学 医学部感染症学講座 主任教授

ていねいな手洗い、マスクの着用とうがいを心がけて

妊娠中は免疫(めんえき)力が落ち、風邪やインフルエンザ、ノロウイルス感染症などの感染症にかかりやすくなります。普段なら風邪をひいても1~2日安静にしていれば治りますが、妊娠中は「ただの風邪」も治りにくいうえ、インフルエンザやノロウイルス感染症にかかると症状が重くなりやすく、長引くことが多いのです。妊娠中は子宮が大きくなって肺を圧迫していることもあり、風邪やインフルエンザにかかると呼吸がしにくい、肺炎になりやすいというリスクも。また、胎児への影響を考慮し、使える治療薬が制限されるという問題もあります。

感染症対策の基本は予防接種を受けること。ただし、すべての病気を防げるわけではありませんし、妊娠中には受けられないものもあります。

1.『妊娠中・産後の予防接種について』

予防接種以外の対策で取り組みたいのが、石けんを使った手洗いの徹底。ノロウイルスのようにアルコール消毒が効(き)かないウイルスには、手洗いが何よりも大切です。手洗いのポイントは、①石けんを使う、②洗い残しがないようにする、の2点。泡立てた石けんで指先、指の間、手首まで30秒以上かけてていねいに洗います。石けんで洗うことで、ウイルスを包みこみ、洗い流す効果があります。固形石けんだと石けんに付着した病原体に触れることになるため、液体石けんの使用がおすすめです。水だけ、お湯だけの手洗いではウイルスは流せません。必ず泡立てた石けんを使ってください。

実際に洗ってみると30秒以上というのが意外と長くてびっくりするかもしれません。それくらい徹底した手洗いでないと意味がないのです。手洗いはパートナーをはじめとする家族にも徹底してもらいましょう。手洗い後のタオルからも感染するので、タオルの共有は避け、ペーパータオルの使用がおすすめ。アルコール消毒も多くの感染症対策に効果があります。

マスクの着用も効果があります。鼻やのどの粘膜(ねんまく)にウイルスがつくことで感染するので、マスクでウイルスがつくことをシャットアウトできます。気をつけてほしいのがマスクをはずすとき。マスクの外側にウイルスがついていますから、外側をさわらないようにはずし、すぐにマスクを捨てましょう。そのあとに念入りにうがいを。うがいはのどの粘膜(ねんまく)をうるおします。粘膜(ねんまく)がうるおっていると侵入したウイルスを外に出す働きがスムーズになり、感染症対策になるのです。