激しいトレーニングを続ける女性アスリートには、妊娠・分娩(ぶんべん)に関して弊害(へいがい)が起こりやすいので、早い時期から産科医と相談を。

久保田俊郎先生
久保田俊郎先生
東京共済病院 婦人科 顧問 / 東京医科歯科大学 名誉教授

女性アスリートの特徴と妊娠への影響

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを目指し、連日激しいトレーニングを続ける女性アスリートが脚光を浴びていますが、妊娠・出産に関しては、ハードな訓練による弊害(へいがい)が起こりやすいことが知られています。第一は激しい運動による無月経、第二はそれによって引き起こされる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や疲労骨折、第三は運動に見合うだけのエネルギーが摂取されないエネルギー不足です。これら3つの特徴は、熱心に競技スポーツに励(はげ)む思春期の女性に多くみられ、放置すると無月経による卵胞(らんぽう)ホルモンの低下が起因して子宮や卵巣の萎縮(いしゅく)が進み、将来不妊症や不育症を引き起こします。骨量減少や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は思春期から性成熟期における骨の成長を妨さまたげるため、特に骨盤の発達やその形態を歪(ゆが)め、しっかりとした足腰の形成を損(そこ)ない、分娩(ぶんべん)時に種々の異常を招くことにもなります。したがって、早い時期から産婦人科医が、その管理・治療に真剣に取り組むことが必要と考えます。

妊娠中は、過度のトレーニングや食事制限によって体重が増加せず、赤ちゃんの発育を妨(さまた)げることのないよう注意を。妊娠中の激しいトレーニングは妊娠子宮筋の収縮を促(うなが)し、妊娠の後半には前期破水や早産に及ぶこともあります。運動量や時間、終了後の子宮や胎児の状態に十分注意すべきで、産科医やスポーツドクターの指導下でのトレーニングをおすすめします。妊娠時の運動は制限があるため、今まで通りのカロリーを摂取していると体重が増加し過ぎることにも注意しましょう。

体操や新体操などの女性アスリートは、月経不順や無月経の既往(きおう)が多いため、卵巣機能の低下や子宮の発育不全に起因する初期の流産や胎盤(たいばん)機能の低下にも気をつけてください。陸上長距離や体操・新体操の女性アスリートは疲労骨折や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の既往(きおう)が多いため、骨量を測定してそれが低い場合には、妊娠中にカルシウムとビタミンDの摂取を十分行い、バランスのよい食事とライフスタイルの改善を。スポーツでの骨折部位は、脛骨(けいこつ)や大腿骨(だいたいこつ)、腓骨(ひこつ)(膝から足首までの外側の骨)が多く、過去の骨折が影響して骨盤の発達や形態に異常があれば、難産につながる可能性もあります。産科医にその点を確認し、綿密な骨盤の計測をお願いしてください。

女性アスリートは、鍛(きた)え抜かれた体力と気力を持ち合わせているので、以上のことに留意すればお産や育児に向けて好スタートが切れると思われます。