妊娠高血圧症候群は、妊娠中の代表的な合併症です。 お母さんと赤ちゃんの両方に悪い影響があるので、厳重な管理が必要です。

成瀬勝彦先生
成瀬勝彦先生
獨協医科大学 医学部産科婦人科講座 主任教授

妊娠高血圧症候群と診断されたら

妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に血圧が高い状態のことです。かつては妊娠中毒症とも呼ばれ、昔から多くのお母さんや赤ちゃんの命を奪ってきましたが、妊婦健診の普及で命に関わる例はかなり減りました。それでも、脳出血や痙攣(子癇(しかん))、血小板減少などお母さんの命に関わる病気をひきおこしたり、胎盤の異常から赤ちゃんが小さくなること(胎児発育不全)や胎盤がはがれること(常位胎盤早期剥離)を起こしたり、さらにお母さんが将来高血圧・腎臓病などの病気にかかりやすくなることも分かってきているなど、現在でも重い病気の一つであることに変わりはありません。この病気は一度かかったことのある人やご家族がこの病気にかかった人、多胎妊娠、肥満・高血圧・糖尿病・腎臓病・自己免疫疾患のある人、前回の妊娠から10年以上あいての妊娠などでは要注意とされています。妊娠の初期に血液検査や超音波検査で後の発症を予測する試みや、内服薬での発症予防も研究されていますがまだ開発途中で、定期的な妊婦健診以外に確実な早期診断の方法がありません。

発症した場合には症状により入院が必要になります。血圧を下げる薬や子癇を予防する薬などが用いられる場合もありますが、根本的な治療法はなく、お産していただくことだけが病気を改善させる方法となるため、お母さんだけでなく赤ちゃんの状態や大きさ、妊娠週数などを考えて対応を判断することになります。産まれる赤ちゃんの対応が難しいと考えられる場合には、専門の病院にお母さんを搬送することもあります。お産の方法は経腟分娩が可能であれば試みられることもありますが、時間の猶予がない場合など、帝王切開を必要とすることも多いです。
産後は血圧やその他の症状が改善するかどうかを慎重に観察し、症状の残る場合は内科などとも連携して診療にあたります。またお母さんが歳をとってから同様の症状を呈することも多く、自分で普段から血圧を測る習慣(家庭血圧測定)をつけておくと良いでしょう。妊娠中に早期に発症を知る方法としても、家庭血圧測定は有用であると言われています。

一般社団法人 日本妊娠高血圧学会