近年、出生前検査の技術が向上し、生まれる前に赤ちゃんの病気や異常がかなり正確に分かってきました。検査を受ける前に受けたい検査と受けたくない検査、知りたい情報と知りたくない情報をパートナーと話し合っておきましょう。

松岡隆先生
松岡隆先生
昭和大学医学部産婦人科学講座 准教授

出生前検査とは

ほとんどの赤ちゃんは無事、元気に生まれてきます。しかし、生まれつき形の病気(先天性形態異常)を持つ赤ちゃんが3~5%いるのも事実です。また、形の異常はないが病気をもつ赤ちゃんもいます。出生前検査を受けて赤ちゃんに病気が見つかった場合、その状況にあった対策を立て妊娠中から生まれた後も切れ目ない医療を提供することが出来ます。つまり、出生前検査は病気を見つけ排除するためのものではありません。一方、出生前検査により知らずに済んだ情報を得て不安に感じてしまうこともあります。また、出生前検査は日進月歩で精度が向上していますが、病気のすべてが分かるわけではありません。とても小さい病変は今でも分かりませんし、機能(発達や障害)など将来を正確に予測するのは困難です。出生前検査にはその検査目的と分かること分からないことがあります。

出生前検査を受ける受けないは個人の自由で、全ての妊婦さんが必ず受けるべき検査ではありません。また、検査によっては検査時期が決まっているものもあります。これから説明する内容をご覧頂き、赤ちゃんを授かったら出生前検査を受けるかどうか、どの検査を受けるのかについてパートナーと話し合っておきましょう。

出生前検査の種類と特徴

出生前検査は大きく分けると2種類あります。ひとつは、赤ちゃんの形(形態)を詳細に超音波検査で観察するもの、もうひとつは赤ちゃんの遺伝情報を調べる検査です。以下にもう少し詳しく説明します。

【超音波検査】

妊婦健診に行くと、超音波検査によって子宮内の赤ちゃんを観察します。この妊婦健診時に行われる超音波検査には同じ機器を使っていますが、2種類あり「通常超音波検査」と「胎児超音波検査」と呼ばれています。「通常超音波検査」とは赤ちゃんの心拍の有無、双子かどうか、発育の状態の確認、胎盤の位置、羊水量など妊娠が通常通り順調に進んでいるかを確かめる検査で、妊婦健診毎に行われることが多いです。一方、「胎児超音波検査」とは赤ちゃんの形(形態)を詳しく観察し、疾患がないかどうかを検査する目的で行われる検査で、時期を決めて妊娠中に数回行われる検査です。「胎児超音波検査」は出生前検査に特化して行われる検査ですので、全ての妊婦が必ず受けなければならない検査ではありません。よって、「胎児超音波検査」を提供している施設の多くは、検査に関する説明と同意の文書を用いています。「胎児超音波検査」により、異常もしくは正常とは言いづらい所見が見つかった場合は、然るべき二次検査(専門医による超音波検査)を行い、診断に至ることもありますし、二次検査の結果問題ないことが判明することもあります。

【遺伝学的検査】

赤ちゃんの遺伝情報を検査する目的の検査を遺伝学的検査と言います。現在行われている出生前遺伝学的検査は更に「確定検査」と「非確定検査」に分かれます。赤ちゃんは子宮の中にいるので、直接触ることが出来ません。赤ちゃんの遺伝情報を確実に検査する(=確定検査)ためには、針で刺す等、何かしらの方法(侵襲的検査と言います)で赤ちゃんもしくは赤ちゃんも周り(羊水中にある赤ちゃんの細胞、胎盤など)から直接赤ちゃんの遺伝情報を採取する必要があります。よって、侵襲を伴う検査には少ない確率ですが危険(流産)が伴います。一方、間接的情報により赤ちゃんの遺伝学的異常の発生頻度を推定する方法があり、それを「非確定検査」と呼びます。「非確定検査」は診断ではないので、それだけで確定には至りません。「非確定検査」である程度高い確率が出た場合は、侵襲的検査の危険度を考慮し検査を受けるかどうかを判断します。このように遺伝学的検査にはその検査の種類、目的、分かること、結果の解釈など情報が多く、また、倫理的配慮が必要です。そのため、出生前検査として遺伝学的検査を行う、行おうかどうか考える、また、その結果に関しては遺伝カウンセリングを受けることが推奨されています。

非確定検査

【超音波検査(+母体血清マーカー検査)】

超音波検査は、赤ちゃんの形の異常があるかどうかを判断するために用いられる検査と説明しましたが、赤ちゃんの幾つかの所見が染色体異常(染色体の本数が正常と異なる疾患)と関連があることが分かっています。その所見そのものは病気を表しているわけではありません。幾つかの超音波所見の値から、もしくはお母さんの血液中のある物質の量を加味して染色体異常の発生頻度を計算する方法です(11週~14週)。週数(15週以降)によっては、超音波検査を使わずお母さんの血液検査だけの検査方法もあります。

【NIPT】

妊娠中のお母さんの血液にはに赤ちゃんの染色体の断片(DNA)が混じっていることが分かっています。この赤ちゃん由来のDNA断片を分析して、赤ちゃんの染色体異常を推定する検査です。妊娠10週以降で検査可能であり、同じ「非確定検査」ですが、今までの超音波検査や母体血清マーカー検査に比べて明らかに精度、特に陽性的中率(検査陽性の場合に確定検査で陽性が出る確率)が高い検査です。受検にあたり、検査結果保留の意義など検査結果の解釈が遺伝学的知識を要するため、遺伝カウンセリング体制の整った日本医学会認定の実施施設での検査を推奨しています。

「認定施設」について

確定検査

【羊水検査、絨毛検査】

赤ちゃんから直接遺伝情報を得るために、お母さんのおなかに針を刺して、赤ちゃんを包んでいる羊水を採取し、その中に混ざっている赤ちゃんの細胞を回収する検査を羊水検査(15週以降)、将来胎盤になる絨毛と呼ばれる部位を回収するのが絨毛検査(11w以降)です。何れも赤ちゃんの直接情報ですので、結果は確定的、つまり診断となります。但し、稀に絨毛が赤ちゃんの細胞と異なる遺伝情報を持っていることがあるので、その解釈には注意が必要です。羊水検査も絨毛検査も侵襲的検査ですので、流産リスク(羊水検査で 1/300~1/500程度、絨毛検査で 1/100~1/300 程度)があります。