不妊治療の発達もあり、高齢女性の妊娠が増加しています。妊娠・分娩(ぶんべん)について、加齢にともなって高まるリスクがあることを理解しましょう。

吉村泰典先生
吉村泰典先生
慶應義塾大学 名誉教授

加齢とともに高まるリスクがある

生殖補助(せいしょくほじょ)医療技術の向上により不妊治療による妊娠が増加していますが、結婚年齢の上昇もあり、その多くが高齢妊娠となっています。高齢妊娠にはリスクがともなうことを、理解しておきましょう。ひとつは、加齢そのものが妊娠に与える影響で、染色体異常や流産が挙げられます。卵子の生物的な加齢現象が、胚(はい)の発生や妊娠維持機構に影響を与えます。母体年齢が高くなるほど、染色体の数の異常(トリソミ−)が増え、流産や死産になりやすくなります。また異所性(いしょせい)妊娠や胞状奇胎(ほうじょうきたい)も母体の年齢の上昇とともに増加します。もうひとつ、年齢とともに病気にかかりやすくなり、それが妊娠に合併(がっぺい)するリスクもあります。生殖機能だけでなく、その他の身体機能も低下し始めます。妊娠が成立したとしても、高血圧や糖尿病などの合併(がっぺい)が妊娠経過に異常をきたす確率は高くなります。

不妊治療を受ける女性は、この高齢妊娠のリスクを必ずしも深刻に受けとめているとは言い難い状況にあります。生殖(せいしょく)医療を受けるにあたっては、高齢妊娠における分娩(ぶんべん)のリスクをあらかじめ医師から十分に説明を受けておく必要があります。しかしながら、妊娠して初めて高齢出産のリスクを知らされることが多く、胎児の染色体異常の頻度(ひんど)も含めて、妊婦はさまざまな不安を抱くことになります。長年の不妊治療後、カップルの意思でつくった子どもであるにもかかわらず、難しい決断や苦渋(くじゅう)の選択を迫られることも少なくはありません。

分娩(ぶんべん)に携(たずさ)わる医師は、いかなる状況下での妊娠であっても、またその女性が高リスクであっても、妊娠の維持に努め、母児ともに良好な結果が得られるように最大限の努力をしています。不妊治療においては、不妊治療と分娩(ぶんべん)に携(たずさ)わる医師が互(たが)いに緊密な連携を取り合うことが大切であり、さまざまな妊娠合併症(がっぺいしょう)の発症により入院せざるを得ない状況が起こりうること、流産や死産、さらには医学的な理由により早産となることがあることを、十分に説明しておく必要があります。

妊娠年齢の高齢化は医学的にさまざまな問題を引き起こしますが、もっとも尊重すべきは女性が自らの意志で自身の人生設計をすることにあります。ただ、自身の人生の選択に際し、高齢妊娠にともなうリスクなどの情報を入手しておいたり、妊娠する前に医師とそのリスクについて相談しておくことが大切なのです。