妊娠すると、日頃なら気にしないちょっとしたことが気になることも。心配なことがあれば、医師や助産師に相談しましょう。

木戸道子先生
木戸道子先生
日本赤十字社医療センター 第一産婦人科 部長

やっぱり気になる、妊娠中の食べ物や嗜好品(しこうひん)

「たばこは絶対に吸ってはダメですよね?」

喫煙(きつえん)により、がんをはじめ、さまざまな病気のリスクが高くなることが知られていますが、妊娠中はおなかの中の赤ちゃんにもよくない影響があります。赤ちゃんは胎盤(たいばん)、へその緒(お)を通してお母さんから送られている酸素や栄養を頼りに育っています。たばこを吸うことで赤ちゃんが低出生体重児になるなど多くの悪影響があります。妊娠がわかったらすぐ、家族みんなで禁煙しましょう。

「コーヒーは飲んでいいですか?」

コーヒーにはカフェインが含まれていますが、1日数杯ほど楽しむ程度なら問題はありません。カフェインはコーヒーだけでなく紅茶、日本茶、ウーロン茶にも含まれていますが、常識的な範囲内であればとくに控(ひか)える必要はありません。カフェインの入っていないコーヒー、紅茶類もあり、妊婦さん向けの飲料もあるので試してみるといいでしょう。リラックスして過ごすことも重要です。お気に入りの飲み物を見つけて、ゆったりとした気分で過ごせるといいですね。

「甘いモノが好きで、お菓子やケーキをガマンできません」

妊娠中の体重管理はなかなか難しいものです。ただ、太り過ぎもやせ過ぎもどちらもよくありません。甘いモノの食べ過ぎでは、栄養バランスが悪くなり、虫歯のリスクも増えます。まったく食べないのもストレスになるでしょうから、あらかじめ、いつどのくらいの量を食べるかを決めておき、だらだらとたくさん食べるのはやめましょう。いろいろ買い置きしないようにするのも大切です。

「カルシウムをたくさん摂(と)るようにと言われましたが、牛乳が嫌いです」

胎児の発育のためにカルシウム摂取(せっしゅ)がすすめられますが、不足でも過剰(かじょう)でもよくありません。牛乳にはカルシウムや良質のたんぱく質が含まれていますが、アレルギーがある、おなかをこわす、などで飲めない人もいます。カルシウムが含まれている食品には、ヨーグルトやチーズなど乳製品以外にも、切り干し大根、小魚、小松菜などがあります。離乳食のレパートリーを増やすためにも、どの食品にどのような栄養が含まれているか、調理法やメニューなど、情報を集めておくといいですね。

「妊娠してからのどがかわくのですが、どのくらい水を飲めばいいのでしょうか?」

大人の場合、飲み物と食べ物から合わせて1日2リットルの水分を摂(と)る必要があります。妊娠中は代謝が活発なため、いつもより多めの水分摂取(せっしゅ)を心がけましょう。サラサラの血液を赤ちゃんに送るためにも、水分補給は大切です。一度に大量に飲むと胃に負担がかかることもありますから、基本は「少しずつ、頻回(ひんかい)に」。糖分の多いジュースよりも、水やお茶を。水は軟水(なんすい)のほうが味にクセがなくて飲みやすいと思います。寝ている間にも汗などで水分を失っていますので、朝起きたらまず1杯の水を飲むことを習慣にしましょう。

続けていいの? いつもの習慣

「スポーツは続けていいですか?」

妊娠中はウォーキングや水泳などの酸素を十分取り入れる有酸素運動が適しています。ケガをしやすいものや競技的なスポーツは勧められません。持病がある人やお腹が張りやすいなどの症状がある場合は運動を控える必要があるので医師と相談しましょう。

「車の運転をしてもいいですか?」

つわりやおなかの張りなどで体調不良でなければ、とくに運転についての制限はありません。ただし、おなかが大きくなると同じ姿勢でいるとつらくなりやすいため、長時間の運転は避けましょう。ママと赤ちゃんの命を守るために、必ず正しく装着するようにしましょう。

「サプリメントを使っていいですか?」

栄養やビタミンなどをサプリメントで補(おぎな)う人もいるでしょう。医薬品ではありませんが、用法、用量や使用上の注意を守って利用しましょう。ビタミンAなどの脂溶性(しようせい)ビタミンは摂(と)り過ぎると胎児に影響することがあるので注意しましょう。くわしくは下記の『薬・サプリとのつき合い方』 のページをご覧ください。

『薬・サプリとのつき合い方』

「腰痛がありますが、市販の湿布(しっぷ)薬を使っていいですか?」

一般に、薬局やドラッグストアで購入できる市販薬には妊娠中に重大な影響を与えるものはさほど多くはありませんが、成分や使用時期、量によっては問題になることがあります。解熱鎮痛薬(げねつちんつうやく)の中には胎児の心臓に影響する成分が含まれていることがあり、湿布(しっぷ)薬でも使用量によってはトラブルを起こす例があります。使用前には医師や薬剤師に相談するようにしましょう。

「妊娠中にセックスをすると早産になるのですか?」

安静が必要な場合でなければ、セックスは基本的にかまいません。つわりで体調がすぐれない、おなかが張る、痛みを感じるなどの症状があれば無理せず、しばらく休んで様子をみましょう。手をつないで寝るなどスキンシップを通じて、思いやりのあるコミュニケーションをはかるとよいでしょう。

「パーマやカラーリングしてもいいですか?」

パーマやカラーリングはとくに制限はありません。ただ薬剤のにおいが気になる、同じ姿勢で頭を傾けていると気分が悪くなる、ということがあるので、つわりなどで体調がすぐれないときは控(ひか)えておいたほうが無難です。シャンプーなどのヘアケア製品も、それまで使っていたものでお肌のトラブルがなければそれを使ってかまいません。

「PCや携帯電話の使用はどの程度までいいですか?」

電磁波がおなかの赤ちゃんにどの程度影響があるか、必ずしもわかっているわけではありませんが、日常生活での常識的な使用で問題になるケースはほとんどありません。ただ、画面を見続けることで、眼精疲労(がんせいひろうや肩こりを引き起こしたり、携帯電話やスマートフォンに多くの時間を奪われ、依存症(いぞんしょう)になったりする場合もあります。使いすぎることなく、適度に利用するようにしましょう。

相談しにくい気持ちの問題

「せっかく妊娠したのに、なぜかあまり喜べないでいます」

妊娠によって喜びや楽しみだけではなく、不安やとまどいを感じることは少なくありません。「こんなことでいいのだろうか… 赤ちゃんに申しわけない…」と自分を責(せ)める必要なんてないのです。胎動(たいどう)がわかるようになり、新しい命の宿(やど)りが確かに感じられる頃になると、つわりもおさまり、気分も晴れやかになっていくことが多いものです。

「実は子どもが好きではなく、育てていけるか心配です」

少子化にともない、身近に子どもがいない、最近子どもと接した経験がない、という人が増えています。社会においても、子ども連れやベビーカーが邪魔(じゃま)にされる、保育園や学校の子どもの声がうるさいと苦情が出る、など必ずしも子育てに優しくない傾向があります。こうした背景もあって、子どもに対してマイナスのイメージが思い浮かんでしまうのかもしれません。健診のときには、超音波検査の画面で元気に動く赤ちゃんの姿を眺(なが)めてみましょう。お産を乗り越えてわが子に出会うとき、今の心配な気持ちが喜びに変わっているといいですね。

「前に流産したのですが、また同じことにならないか心配です」

前回の妊娠、出産の経過がうまくいかなかったとき、また繰り返すことはないか、不安になることも多いと思います。流産を経験した場合にはちょっとしたおなかの痛みやおりものの変化にも敏感になってしまうかもしれません。ただ、流産のほとんどは初期に起こり、妊娠12週を過ぎる頃には少なくなってきます。気になる症状があればひとりで悩まず、医師や助産師に相談しましょう。

「超音波検査で赤ちゃんが大きめだと言われました。私は小柄なのでちゃんと産めるか心配です」

赤ちゃんの発育には個人差がありますし、超音波検査での計測には誤差が意外とあるものです。「ちょっと頭が大きいですね」「小さめですね」など健診で何気なく言われたことで、不安に思ってしまう妊婦さんも少なくありません。ただ、その後に精密検査が必要になるなど特別なことがない限り、正常の範囲内での所見についてのコメントであり、ほとんど気にする必要はありません。心配なことがあれば、気軽にかかりつけ医に質問してみましょう。

旅行やイベント、思い出づくり

「飛行機に乗っていいですか?」

切迫早産(せっぱくそうざん)などの合併症(がっぺいしょう)が特になければ、出張や帰省などで飛行機に搭乗することは可能です。ただ、予定日が近い時期になると、急にお産が始まることもあるので遠出はおすすめできません。妊娠週数と航空会社によっては搭乗する際に、診断書が必要な場合もあります。また、長時間の搭乗ではエコノミークラス症候群といって血栓症(けっせんしょう)を起こすリスクがあるので、同じ姿勢を長く続けないよう、時々脚(あし)を動かす、水分をこまめに摂(と)るなどで予防します。

「温泉に入っていいですか?」

妊娠中にお風呂や温泉に入っても支障(ししょう)ありません。ただ、おなかが大きくなると足元が見えにくくなるので、慣れない環境での入浴で転倒などしないよう注意してください。急に立ち上がるときに起立性低血圧を起こして気分が悪くなることもあるので、ゆったりと過ごしましょう。

「海外旅行に行ってもいいですか?」

妊娠がわかる前から予約していた場合など、海外旅行に行っていいのか迷うこともあるでしょう。経過が順調であっても、出血やお腹の張りなどのトラブルが旅先で発生することもあります。その際にすぐに適切な治療が受けられるとは限りません。また、地域によっては胎児に影響が出る感染症にかかるリスクもあります。不要不急の海外旅行はおすすめしません。

「授(さず)かり婚です。一生に一度のことなので結婚式を挙げたいのですが、ベストなタイミングは?」

式を挙げるカップルの4分の1以上が授(さず)かり婚といわれています。結婚と妊娠とでダブルのおめでたになりますが、結婚式をどうするか悩むことも。体調さえ問題なければ時期はいつでもかまいませんが、初期のつわりや切迫流産(せっぱくりゅうざん)が起こりやすい時期が過ぎた、妊娠5〜6カ月に行う人が多いようです。事前の準備や、式当日の緊張などで忙しく、疲れをためてしまうことのないよう気をつけましょう。パートナーや家族と協力し、思い出に残る素敵な式ができるといいですね。