妊娠・出産というと、何かと費用のかかるイメージがありますが、助成制度や給付金を含めてさまざまな支援体制があります。

倉澤健太郎先生
倉澤健太郎先生
公立大学法人 横浜市立大学大学院医学研究科 生殖生育病態医学講座 産科婦人科学 准教授

母子健康手帳が交付され、妊婦健診費の助成も

妊娠・出産は正常な経過であれば各種保険が適用されず自費診療が中心となりますが、実はさまざまなサポート制度が用意されています。困ったことがあったら、まずは自治体に相談してみましょう。妊娠の兆候(ちょうこう)があり、病院・診療所で分娩予定日が確定したら、お住まいの自治体に「妊娠届」を提出して、母子健康手帳をもらってください( 1 参照)。母子健康手帳は妊娠・出産・育児についての健康記録を一貫して記していくものですから、必ず妊婦健診のたびに持参しましょう。また、母子健康手帳にも医療給付の制度など記載されていますので、一通りご覧ください。

1 『母子健康手帳』

母子健康手帳交付時に、「妊婦健診費の公費助成」「母親学級・両親学級」などの案内を受け取ります。妊婦健診費の公費助成は妊娠が確定してからのおおよそ14回分の健診費用を自治体が助成する制度です。助成内容は自治体によって異なりますが、健診や採血・超音波などの検査が助成されます。母親学級・両親学級は、病院・診療所、市町村保健センター、保健所などで妊産婦とその家族のために実施されています。からだの変化、出産についての知識、赤ちゃんを迎えるにあたっての準備など、すこやかな妊娠と出産のための指導を受けることができます。参加費は原則無料(テキスト代などがかかることもあります)ですので、日程を確認して積極的に参加しましょう。

働いている妊婦さんは、主治医等が行った指導事項の内容を、妊産婦から事業主へ伝えるのに役立つ「母性健康管理指導事項連絡カード」があります。通勤緩和(かんわ)や休憩(きゅうけい)時間の延長といった措置(そち)が必要な場合、このカードを活用しましょう。

分娩費用に対しては出産育児一時金で50万円が払われる

妊婦さんの出産費用をサポートするために支給されるのが「出産育児一時金」です。子どもひとりにつき50万円(産科医療補償制度の掛け金1万2000円を含む)が健康保険法にもとづく保険給付として支払われます。申請は、夫の扶養(ふよう)に入っている妊婦さんは夫が加入している健康保険に、働いている妊婦さんは自分が加入している健康保険に対して行います。多くの妊婦さんが、病院に出産育児一時金を直接支払ってもらって、退院時にはその差額のみを支払う「直接支払制度」あるいは「受取代理制度」という形をとっていますが、詳細は分娩(ぶんべん)予定の病院に確認しましょう。

どうしてもお金がなくて分娩費用の支払いに不安がある方は、自治体の福祉(ふくし)事務所にご相談ください。児童福祉(ふくし)法に基もとづいた「助産制度」を利用することになれば、自治体が指定した助産施設(病院)に入院・分娩(ぶんべん)することで、自己負担額を大幅に減らすことができます。

妊娠中に切迫流産(せっぱくりゅうざん)・早産、妊娠高血圧症候群のような異常(病気)に対する検査や治療が必要になることもありますが、これらについては保険診療となります。入院が長期にわたるなど、1カ月の治療費がある一定額を超えると、それ以上の金額は健康保険の「高額療養費制度」が適用されます。負担の上限額は年齢や所得によって異なりますので、医療機関でご相談ください。

また、働いている妊婦さんで出産前後から復帰するまで無給となった場合は、「出産手当金」「育児休業給付金」が支給される制度があります。出産手当金は、産前産後休業の間、働いていたときの日給の3分の2相当額が健康保険から支払われます。育児休業給付金は、育児休業に入ってから最初の180日は休業開始前の賃金の67%相当額、それ以降は50%相当額が支払われます。妊婦さんだけでなくパートナーも出生後8週間の期間内に合計4週間分(28日)を限度として「産後パパ育休」を取得した場合、一定の条件を満たすと「出生時育児休業給付金」の支給を受けることができます。くわしい手続きは、会社の担当部署や公共職業安定所(ハローワーク)に問い合わせてください。

自分で抱え込まず、初期のうちに相談を

赤ちゃんが生まれたら、まず14日以内に自治体へ「出生届」を提出します。その際、「児童手当」受給と「乳幼児等医療費助成制度」の手続きをしましょう。

児童手当は中学校修了までの児童1人につき、3歳未満で月額1万5000円、3歳から小学校修了前までが1万円(第3子以降は1万5000円)、中学生は1万円を受け取れます。現時点では所得制限があり、所得が一定額を超えている場合は、特例給付として月額5000円が支給されます。

乳幼児等医療費助成制度は、0歳からある一定の年齢まで、医療機関にかかった場合、窓口で支払う各種医療保険の自己負担額(3割、ただし小学校入学前までは2割)分の一部あるいは全額が助成される制度です。対象年齢、所得制限の有無、自己負担の有無など、各自治体によってさまざまですので、特に転居の際などには必ず確認しましょう。

出生時の体重が2000g以下で生まれた赤ちゃんは、「未熟児養育医療給付制度」があり、必要な医療費がサポートされます。出生届といっしょに自治体に申請をしましょう。

万が一、赤ちゃんが脳性麻痺(のうせいまひ)と診断された場合は、「産科医療補償制度」による補償があります。くわしくは下記の産科医療補償制度のホームページや『産科医療補償制度ってどんな制度?』のページ をご覧ください。

産科医療補償制度
『産科医療補償制度ってどんな制度?』